私は生命科学の現場に40年近くおり、特に、後半は、遺伝子の研究に従事していました。
その間、新しい遺伝子工学を取り入れることができ、幸いにも研究が予想以上に進み、多くの感動的なドラマに出会うことができました。
2000年には、ヒト・ゲノムの全遺伝子暗号(塩基配列)がほぼ解読され、20世紀の科学の最大の成果だといわれました。
しかし、この成果より、もっともっと凄いことがあります。
それは、解読される前に、すでにその暗号が書かれていたという事実です。
万巻の書物に匹敵するヒトの情報が、極微の空間に書き込まれ、しかも、その情報は、いま、一刻の休みもなく、私たちの身体の中で正確に解読されているという事実です。
この見事な人間業を超える働きを、私は「サムシング・グレート」と名付けてきました。
私たちは「サムシング・グレート」のお陰で生かされているとも言えるのです。
いま、私が最も関心を持っているのは、多くの遺伝子は眠っており、それが、いろいろな刺激で眠りを覚ますという事実です。
良い遺伝子をオンにすることができれば、私たちの可能性は飛躍的に向上します。
このようなことが、科学の言葉で説明できる時代を迎えつつあります。
私は、長い研究生活の結論として、「思いが遺伝子の働き(オン・オフ)を変える」と確信するようになりました。
この仮説を科学的に証明するため「心と遺伝子研究会」を2002年8月29日に立ち上げました。
仮説というと、なんだ仮説かという人がいますが、科学は仮説が大切なのです。
あるいは仮説そのものなのです。科学は殆どの場合、絶対的な真実ではありません。
私たちの身体には、多くの遺伝子が眠っております。
これらの遺伝子が、感動、喜び、笑いなどによって生き生きワクワクすれば、目を覚ますと考えられます。
このことが証明できれば、心と身体の関係が遺伝子のオンとオフで説明できる突破口が開けます。
さらに、この研究で「心の持ちかたによって、眠れる良い遺伝子を目覚めさせること」を示せば、この成果は、将来の教育や生き方に新しい視点を導入できます。
私は残りの人生を、このプロジェクトにかけたいと思っています。
いまの日本は、元気がありません。
それは、良い遺伝子が眠っている状態にあるからだと考えられます。
けれども、21世紀は日本の出番が来ると私は思っております。
そのためにも、皆さんと一緒になって、このプロジェクトを是非、成功させたいと念願しております。
(心と遺伝子研究会代表挨拶より)
★最近の遺伝子の研究から、凄い事が一つ分かってきました。
「遺伝子の働きは、それを取り巻く環境や外からの刺激によっても変わってくる」ということです。
正確に言えば、それまで眠っていた遺伝子が眼を覚ますことでもあるのです。
環境や外からの刺激といえば、一般には物質レベルだけを考えがちですが、私は精神レベルでも考えています。
精神的な刺激やショックが遺伝子に及ぼす影響、つまり遺伝子と心の関係がこれから注目されるようになると思っているのです。
例えば、強い精神的ショックを受けると、たった一晩で髪の毛が真っ白になってしまう。
一方、末期がんで「余命数ヶ月」を宣告された患者さんが、半年たっても一年建ってもピンピンしている。
また、俗に「火事場のバカ力」といって、極限状況になると人間はとてつもない力を出す。
これらのどれもが遺伝子の働きに関係し、しかも本人の考え方でどちらでも転ぶ。
例えばガンになった時、「治るんだ」と思う人と「もうダメだ」と思う人とでは、ガンそのものが変わってくる。
ひどい高血圧なのに「俺は血圧が低いんだ」と頑固に信じているとなぜか症状が軽い。
こういうことに遺伝子が深く関係している。
★人の細胞の数は60兆個。生まれたばかりの赤ちゃんでも細胞三兆個
細胞の数は体重60キロの人で60兆個もあります。
キロ当たり約1兆個の計算で、生まれたばかりの赤ちゃんでも3兆個の細胞を持っています。
もっと凄いことは、この細胞一個一個に、例外を除いてすべて同じ遺伝子が組み込まれていることです。
細胞の仕組みは、一つの細胞の中心には核があって核膜で覆われており、その核の中に遺伝子があります。
元を正せばこのたった一個の細胞(受精卵)からスタートして、今のあなたがあるのです。
一個の受精卵が二個に、二個が四個に、四個が八個に、八個が十六個に・・・と細胞が次々と分裂を繰り返し、途中からは、「おまえは手になれ」「おまえは足になれ」「俺は脳に行く」「俺は肝臓になる」と、それぞれ手分けして母親の体内でどんどん分裂を続けて、十月十日で出産、細胞数約3兆個の赤ちゃんの姿になってこの世に誕生する、というわけです。
人の細胞一個の核に含まれている遺伝子の基本情報量は30億の化学の文字で書かれており、これをもし本にすると、千ページの本で千冊分になる。そして私たちはこのDNAに書き込まれた膨大な情報によって生きているのです。
これだけの膨大な情報を持った遺伝子が、60兆個の細胞一つ一つにまったく同じ情報として組み込まれているということは、体のどこの細胞の一片を取ってきても、そこから人間一人を立派に誕生させる事が出来る可能性を持っているということです。
しかし、ここで一つの大きな疑問が生じてきます。どの細胞も人間一人の生命活動に必要な全情報をもっているとしたら、爪の細胞は爪しかならず、髪の毛の細胞は髪の毛の役割しか果たしていないのはどうしてなのか?ということです。
髪の毛の細胞が急に「心臓の仕事がしたい」、心臓の細胞が「俺は今日から爪の仕事をする」などと言い出すことはないのか。
各細胞が持つ情報は全て同じなのですから、それは潜在能力的には可能なことなのです。
しかし現実にはそういうことは起きていません。
それは爪の細胞の遺伝子は爪になることはOK、つまり遺伝子をオン(ON)にしているが、それ以外は一切ダメ、つまりオフ(OFF)にしていると考えられるからです。
受精卵から分裂して体を作っていく過程で、細胞間で何らかのそういった取り決め、役割分担みたいなものが行われ、以後は各細胞がそれをきちんと守っていると考えられます。
★誰がこんな凄い遺伝子の暗号を書いたのか
人間はしゃべる時にも遺伝子が働かないとしゃべれない。
言語情報を脳から取り出すときには遺伝子の働きがいるのです。
さらに驚異的なのは、これらの遺伝子の構造と原理は、全ての生物に共通していることです。
現在地球上には2百万種以上の生物がいるといわれているといわれますが、カビも大腸菌も植物も動物も人間も全て同じ原理。
という事は、あらゆる生物が同じ起源を持つことを示しているように思われます。
もう一つ遺伝子で興味深いことは、原理は同じなのに、その組み合わせによって、二つと同じものがないことです。
秀才と美人が結婚しても「美男の秀才」が生まれるとは限らない。
また別な見方をすれば、あなたがこの世に生まれてきたということは、70兆という膨大な数の可能性の中からたまたま選ばれて、この世に存在しているわけで、それだけでも貴重だということが出来るのです。
いったい誰がこんな凄い遺伝子の暗号を書いたのか?遺伝子の暗号は、人間自身に書けるはずがないのは初めから分かっています。
では自然に出来上がったのでしょうか?
生命の元になる素材は自然界にいくらでも存在しています。
しかし材料がいくらあっても自然に生命が出来たとはとても思えません。
もし、そんな事が出来るのなら、車の部品を一式揃えておけば、自然に自動車が組み立てられることになる。
そんなことは起きるはずがありません。
ここはどうしても、人間を越えた何か大きな存在を意識せざるを得なくなってきます。
私自身は人間を越えた何か大きな存在のことを、ここ十数年来「サムシング・グレート(偉大なる何者か)」と呼んでいます。
そういう存在や働きを想定しないと、小さな細胞の中に膨大な生命の設計図を持ち、これだけ精妙な働きをする生命の世界を当然のこととして受け入れにくいのです。
さらに私はこんなことも考えます。
人間は自然に挑戦するとか、自然を征服するとか、色々と勇ましいことを行っているけど、大自然の不思議な力で生かされているという側面も忘れてはいけないのではないか!近年、生命科学が長足の進歩を遂げ、生命の謎が少しずつ解き明かされるところまで気いるのは事実です。
しかし、ノーベル賞学者が束になってかかっても大腸菌一つ作れない。
これから先も、生命そのものをゼロから作ることはきわめて難しいと思われます。
村上和雄先生とは、
1936年生まれ。DNA解明の世界的権威・筑波大学名誉教授。
世界に先がけ、高血圧の黒幕である酵素「レニン」の遺伝子解読に成功し、一躍世界的な業績として注目を集める。
現在ノーベル賞の有力候補とされる注目の人。
最先端の遺伝子工学の研究から、「感性と遺伝子は繋がっている」ことを究明。
想像をはるかに超える人間の持つ偉大な可能性を開花させる「眠れる遺伝子の目覚めさせ方・考え方」を解き明かす。
科学に身を置きながら、哲学、宗教、宇宙観をも包み込む独自の世界観を展開。
その飾らない人柄と軽妙洒脱な語り口調に全国の経営者から絶賛の声が集まる。
著書に「生命の暗号」「人生の暗号」「サムシング・グレート」「遺伝子は語る」「幸福の暗号」「未知からのコンタクト」他多数。
続く・・・。


